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肺高血圧症専門外来

担当医師
- 火曜日午前24番外来:平出 貴裕
- 水曜日午後26番外来:平出 貴裕
概要
肺高血圧症外来のご案内
肺高血圧症専門外来は火曜日午前24番、水曜日午後26番で、片岡 雅晴が担当しています。 (慢性肺血栓閉塞性肺高血圧症の低侵襲カテーテル治療専門外来は火曜日午後25番で、川上崇史が担当しております)
肺高血圧症について
肺高血圧症は希少疾患であるため、肺高血圧症と診断される患者さんの数は決して多くはなく、肺高血圧症の治療経験に恵まれない医師も数多いのが現状です。10年余り前はほとんど有効な治療法がありませんでしたが、近年プロスタサイクリン(フローラン®)の持続投与療法などの新しい薬剤が登場してからは、生存率が飛躍的に改善しています。しかしそういった新しい治療法は極めて専門性が高く取り扱いも難しいため、高い専門知識を持った医師のもとで治療を受けることがこの病気と診断された患者さんにとって最も大切です。
慶應病院の肺高血圧症専門外来について
当院の肺高血圧症外来はフローラン®が日本で使われ始めた十数年前に創設された関東地方における草分け的な存在です。それゆえ高度な知識と特別な在宅ケアが必要となるフローラン®の使用に関しても、経験豊富な医師・看護師のスタッフが充実しており、あらゆる種類の肺高血圧症の患者さんが安心して受診できる高度な医療体制が整備されています。そういった点から当院の肺高血圧症外来は全国屈指の施設であるため、希少疾患であるにも関らず他院からの紹介でたくさんの患者さんが受診されています。
プロスタグランジンI2持続静注療法

プロスタグランジンI2(フローラン)持続静注療法は肺動脈性肺高血圧症の治療における最も効果の高い治療法です。高度の肺高血圧症や内服薬での治療での改善が得られにくい患者さんを対象に行っています。図に示すとおりカテーテルを体内に留置し、そこから24時間持続的にフローランという肺の血管を高度にひらく薬剤を投与することで、肺高血圧症の症状を改善することができます。
プロスタグランジンI2持続静注療法は体内に入っているカテーテルのケアや、薬液の管理を在宅で行う必要があるため、専門のスタッフによるしっかりとした指導が欠かせません。当院はフローランが日本で認可され使用できるようになった当初より、この治療法をたくさんの患者さんに提供してきました。したがってこの治療のノウハウがたくさん蓄積されており、新しくプロスタグランジンI2持続静注療法を始める方にも安心して治療を受けていただくことができます。またプロスタグランジンI2持続静注療法を受けている患者さんについては、カテーテルの抜去など緊急に発生したトラブルに備えて、いつでも主治医と連絡がとれる体制となっています。
また現在は特発性肺動脈性肺高血圧症だけではなく、膠原病に起因する肺高血圧症や肺血栓塞栓性肺高血圧症および呼吸器疾患に伴う肺高血圧症など多彩な背景疾患をもつ患者さんが通院しているため、リウマチ内科や呼吸器内科および小児科や心臓外科などの他科の医師とも密接に連携して治療にあたっています。
最先端の治療について
さらに当院ではすでに日本で承認された薬剤だけではなく、海外では使われているものの日本ではまだ未承認となっている薬剤の臨床治験や、海外でも使用された報告のない新規薬剤の治験を医師主導で行うことで世界をリードする治療体制を目指しており、患者さん各々の状態にあった最適かつ最先端の治療法を提供患者さんに提供しています。 また肺血栓塞栓性肺高血圧症の患者さんに対してはお薬による治療だけではなく、カテーテルを用いて病気になった部分を拡げる経皮的肺動脈形成術も積極的に行っております。
経皮的肺動脈形成術

慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の根本的な治療は従来外科的な手術である血栓内膜摘除術とされてきました。しかし患者さんによっては手術での改善の見込みが乏しい場合や、手術の後にも肺高血圧症が持続する方がいらっしゃいます。
慶應義塾大学病院ではそういった患者さんを対象に、全国でもいち早くカテーテルでの治療を取り入れています。カテーテルの治療では、血栓により狭くなったり塞がったりした肺動脈の枝にカテーテルという細い管を通し、そこを風船で拡げることによって血流を回復します。これにより従来は手術での治療が困難であった肺動脈の先の方に病変がある患者さんに対しても治療を行うことができるようになりました。
この経皮的肺動脈形成術は従来は保険適応外の先進的な治療でしたが、2010年の4月より保険でも認可されて標準的治療法の一つとして考えられるようになっています。しかし、この治療を安全に行うためには、手術中だけではなく手術後も含めた高度な管理が必要となり、経験の多い施設で実施することが求められます。当院では2009年よりこの治療法に取り組み、経皮的肺動脈形成術を専門的に行う医師もいることから、患者さんに安心してこの先進的な治療法を受けていただくことができる環境が整っています。
難病と闘う患者さんと向きあうために当院では肺高血圧症に関する最先端の治療を提供するかたわら、難病と向き合う患者さんの肉体的・精神的ケアを行うために専門知識をもった看護師が外来に常駐しています。それにより病気と付き合う上での日常生活上の悩みや心配などを気軽に相談できるだけではなく、患者さん個々人の生活の質を向上させるための調査も診療に取り入れており、患者さん本位の治療が行えるように環境を整えています。
遠方にお住まいの患者さんへ
また遠方より受診される患者さんも多いことから、患者さんの住まわれる地域の病院との連携も非常に密接に行なっています。診断時やフローラン®の導入時などの高度な専門知識を要する際には当院で加療を行い、その後の通院に関しては患者さんのご自宅近くの循環器専門医と連携しながら行っていくという体制で通院されている患者さんも数多くいらっしゃるため、遠方からの受診をお考えの際にも安心して受診していただけます。
【検査】肺高血圧症の診断および評価のための検査
肺高血圧症には様々な原因があり、特に最初に精密検査を行う際にはその後の治療方針を決めていく上で、肺高血圧症の原因を検索する検査および、肺高血圧症が現在どの程度重症であるかを評価するための検査が必要になります。
右心カテーテル検査
右心カテーテル検査は肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。現在では後述する心臓超音波検査などで肺高血圧症の程度を推定する事はできますが、肺高血圧症で肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺の血管がどの程度流れにくくなっているのか(肺血管抵抗といいます)を正確に判定する事が出来る唯一の検査方法が右心カテーテル検査です。
右心カテーテル検査は局所麻酔で行います。皮膚を十分に麻酔した後に、カテーテルを進めるための細い管を静脈と言われる血管の中に挿入します。その際に超音波検査器を併用しながら挿入を行うので、安全かつ確実に血管の中に入れる事が出来ます。またあらかじめ超音波検査上で血管を確認した上で挿入を行うので、血管が細いなどで管が入りにくいと予想される方の場合には、管を入れる場所を変更することで、より安全を期する事が出来ます。当院ではほとんどの場合、首もしくは足の付け根の部分から行います(この部分が最も血管が太くて入りやすく、浅い場所にあるため苦痛も少ないのです)。当院では年間130例以上の右心カテーテル検査を施行しておりますが、この超音波検査を併用する方法に切り替えてからは極めて安全かつ短時間に検査を行う事が出来るようになっており、検査を受ける方の苦痛も著しく減少しています。
管が入った後は、カテーテルというさらに細い管を静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧を直接測定してきます。肺高血圧症の原因によっては、後述する肺動脈の造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管の様々な場所から採血を行うことを追加の検査として行います。
検査時間は通常の場合は30分程度です。初回の場合や追加の検査を行う場合には1時間から1時間半程度かかります。検査後の安静時間は首から検査した場合には30分程度、足の付け根から検査した場合には1時間程度安静にしていただきますが、以後は通常通りの動作が可能になります。
肺動脈造影検査
肺動脈造影検査は右心カテーテル検査の際に引き続いて行われる検査です。肺高血圧症を来す病気のうち、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症や大動脈炎症候群(高安病)と診断された方もしくはその疑いがある方を対象に施行します。カテーテルの先端より肺動脈内に造影剤を注入し、左右の肺動脈を様々な方向から造影していきます。この検査の結果が慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症が手術で改善する見込みがあるかなどのその後の治療方針に影響を与えることが多いのですが、日本でも限られた施設のみでしか精細にこの画像を撮影することができません。
なお検査中造影剤が入る際に体が熱くなるように感じることがありますが、これは異常ではありません。ただし、過去に造影剤でアレルギーを起こしたことがある方や気管支喘息と過去に診断された方などは、この検査を行えない場合があるので主治医に必ず申し出るようにして下さい。
また入院中にはそのほかに下に示す検査を行う場合があります。いずれも肺高血圧症の診断や治療方針を決定する上で重要な検査です。どの検査を行うかに関しては入院中に専門医が検討して決定します。
心臓超音波(エコー)検査
心臓超音波検査も肺高血圧症の診断に関して重要な検査です。肺動脈圧の推定だけではなく、心臓に孔が開いているような奇形による肺高血圧症ではないかなど、心臓の形態学的な状態を見るためにおいて、情報量が多いにもかかわらず患者さんの身体的負担が最も少ない検査の一つです。
肺高血圧症の診断時にはコントラストエコーといって、腕から造影剤の一種を注射して心臓超音波検査を行う場合もあります。検査時間は30分程度です。
経食道エコー検査
この検査は通常のエコー検査と異なり、胃カメラのような端子を飲み込んでいただき食道側から心臓の形態を診断するものです。特に他の検査から心臓や血管の形態学的異常が疑われた場合に行われます。検査時間は30分から1時間程度です。
心臓MRI
心臓MRIは肺高血圧症で最も負担がかかる心臓の部位である右心室の評価に最適な検査です。診断時だけではなく、その後の肺高血圧症の状態により繰り返し検査を行う場合があります。検査は放射線科の専門医と共同で行っております。検査時間は30分から1時間程度です。
呼吸機能検査
呼吸機能検査は肺高血圧症の診断でやはり重要な検査の一つです。肺の機能が悪くなることで肺高血圧症を起こす方がいらっしゃるので、その診断の際にも重要です。しかし近年ではそれだけではなく、肺高血圧症の中には、肺自体は空気を出し入れすることができるにもかかわらず酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が悪くなる例が多いことが知られており、そういった能力を評価するためにも当院では数ヶ月に1度施行しています。検査時間は15分から30分程度です。
肺シンチグラム
正式名称を換気血流シンチグラムと呼ぶこの検査は、おもに慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の診断時に用いられる検査です。他の検査では肺の血管に詰まっている血栓の存在を明らかにすることが難しい場合があるため、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症を見逃さないためにも肺高血圧症の診断時には当検査を必ず行うようにしています。検査時間は1時間程度ですが2回に分けたり2日間に分けて行われる場合もあります。
CT検査
CT検査では肺の血管の状態や肺の血管に血栓やその他のものが詰まっているかどうかの確認だけでなく、肺高血圧症によって肺がダメージを受けていないか、もしくはその逆に肺への障害が肺高血圧症の原因となっているのではないかという点を確認する上で非常に重要な検査です。診断時にはごく一部の例外を除いて造影剤を用いて検査を行います。ただし過去に造影剤でアレルギーを起こしたことがある方や気管支喘息と過去に診断された方などは、造影剤を用いてこの検査を行えない場合が多いので主治医に必ず申し出るようにして下さい。
その他の検査
その他に入院中には採血の検査や6分間歩行検査(歩行距離や歩行中の酸素の状態を観察することで運動能力を評価します)、睡眠時無呼吸検査などいずれも肺高血圧症の評価に関する検査を主治医の指示のもとに行います。
【治療】肺高血圧症の治療
慶應義塾大学病院では専門医チームが肺高血圧症の治療を行っています。患者さんの肺高血圧症の種類や状態に応じて、内服治療(薬を飲む治療)のみで治療が可能なのか、プロスタグランジンI2(フローラン)持続静注療法が必要なのか、もしくは手術による治療法が有効な可能性があるかなどを検討します。
肺動脈性肺高血圧症の治療
肺動脈性肺高血圧症の治療は現在に至るまで内服治療では完治を期待するのは難しいのが現状です。しかしプロスタグランジンI2持続静注療法をはじめとする血管拡張療法によって、狭くなった肺の動脈を効果的に拡げることができるようになったことから、近年肺動脈性肺高血圧症の治療は飛躍的に進歩しています。
現在日本で認可されている薬剤はプロスタグランジンI2持続静注療法(フローラン)、内服薬(ベラサスLA,ケアロードLA)・エンドセリン受容体拮抗薬(トラクリア・ヴォリブリス)・ホスホジエステラーゼ5阻害薬(レバチオ・アドシルカ)などの薬剤です。当院ではこれらあらゆる種類の薬剤に関して日本随一の使用経験を誇っているため、患者さんの状態に応じた適切な治療法を考え提供することが可能です。
特に使用にあたって経験が重要なプロスタグランジンI2持続静注療法に関しても認可当初より計50名以上の患者さんに使用しており、薬剤の使用だけでなくケアの方法などに関しても医師・看護師などの医療スタッフが習熟しています。
また世界中もしくは日本で未だ承認されていない薬剤に関しての治験・臨床試験に関しても積極的に行っており、その中には慶應義塾大学病院独自の治療薬も含まれています。これらの新規薬剤に関しては個々の患者さんの状態を見極めた上で、患者さんにメリットがあるかどうかを十分に検討した上で提供しています。
酸素療法
肺高血圧症の患者さんの場合には、特に労作時に酸素濃度の低下を来すなどの症状を呈することが多く、酸素療法が必要となることが多いのが特徴です。低酸素血症は肺高血圧症を悪化させるため、必要なだけの酸素を吸入することは、内服治療と並ぶ大切な治療法です。
他科との連携
肺高血圧症の中には膠原病や肺自体の病気に合併して肺高血圧症を起こす方がいらっしゃいます。慶應義塾大学病院では肺高血圧症で通院される患者さんが多いため、以前よりこのような他の疾患を合併される方も多く通院されており、当科だけではなくそれぞれの病気に関しても並行して専門医の治療を受ける体制が整っています。
慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の治療
慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症は肺高血圧症の原因が血栓が肺動脈に詰まることにあることから、治療法が他の肺高血圧症と異なる場合があります。慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の中には肺動脈血栓内膜摘除術という手術で改善する方もいらっしゃいますが、手術によってどの程度改善の見込みがあるかに関しては、専門医の判断が重要になってきます。当科を受診され手術適応があると診断されて手術を受けられる方も多いですが、診断の結果手術による改善の見込みが乏しい場合や、手術後に肺高血圧症が残存する場合には、他の肺動脈性肺高血圧症と同様に薬剤による治療が必要になります。
さらに慶應義塾大学病院では2009年よりこうした手術で改善が困難な方に対して、カテーテルによる経皮的肺動脈形成術を施行しています(経皮的肺動脈形成術について詳しくはこちら)。
肺高血圧症専門外来への通院
肺高血圧症は難病に指定されている疾患であり、様々な形で治療を継続する必要があるので、患者さんは病気と長くつきあっていかなればなりません。またプロスタグランジンI2持続静注療法のように、自宅でもケアをしっかりしていかなければならない治療法もあるため、専門の医師と看護師のチームによる長期間のサポートが必要になります。当専門外来では、患者さんが病気とつきあっていく上でどのような社会的サポートや心理的サポートを必要とし、どのようにすればそれが得られるかや、より質の高い生活を送るにはどのようにすればいいかということを含めて患者さんを拝見しています。また世界中の治療に関する最新の情報が入ってくるため、日本で常に最高レベルの治療を受けることができる肺高血圧症治療の拠点施設です。当専門外来にいらっしゃる患者さんは肺高血圧症と診断されたにもかかわらず、治療に関する情報の不足から不安を抱えて受信される方も多いですが、当院受診後には適切な治療を適切な段階で受けられることに安心される方ばかりです。また、遠方からの受診に関しましても患者さんがお住まいの地域の病院と積極的に連携を行って情報交換を行っておりますため、遠方から頻回に受診することなく治療を受けられるようになっています。