担当医師:林田 健太郎
担当医師:林田 健太郎

当外来は心臓弁膜症(大動脈弁、僧帽弁疾患など)に対する低侵襲カテーテル治療である、大動脈弁バルーン形成術(BAV)や経皮的僧帽弁裂開術(PTMC)、また2013年から保険適応となった経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を希望される患者さん、また冠動脈疾患のカテーテル治療をご希望の患者さんを中心に診療する専門外来です。

また将来的には僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療も開始される見込みです。一般的な弁膜症外来は、火曜午前26番(村田医師)、木曜午後26番(鶴田医師)が担当しています。

担当医師

  • 月曜午前24番外来:林田 健太郎

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI, transcatheter aortic valve implantation)について

重症大動脈弁狭窄症に対する治療のgold standardは外科的な大動脈弁置換術ですが、高齢や合併症のためリスクが高く外科手術の適応とならない患者さんが、全患者さんの少なくとも3割以上いるということが分かっています。大動脈弁狭窄症は症状が出現してから手術をしないと予後が非常に悪く、このような手術のできない患者さんは、なすすべもなく看取らざるを得なかったのが現状でした。

このような患者さんに対し、1980年代からバルーンによる弁形成術(BAV)が行われていましたが、一時的に弁口面積が広がり症状が改善するものの、数ヶ月から一年程で再狭窄をきたし、結果的にBAVをしても予後の改善につながらないということが判ってきました。

このような問題点を克服するため、大動脈弁をただバルーンで拡張するだけでなく、弁を留置してくるという治療法がフランスのルーアン大学循環器内科のAlain Cribier教授により考案され、2002年に第一例が施行されました。

当初は未熟な治療で周術期死亡率も大変高かったのですが、デバイスの改良、経験や知見の蓄積により、年々安全性が向上しています。この治療法は外科手術の適応となりにくい高リスクな患者さんに対する新しい治療法として欧米を中心に急速に普及しており、2014年8月現在までに世界中で15万人以上が治療されています。

どのように弁を挿入するか?

弁の留置経路としては、足の大腿動脈から留置する最も低侵襲な、経大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)(図1左)が第一選択となりますが、足の血管が大口径シースを挿入するのに適さない場合には、心臓の先端(心尖部)から弁を挿入する経心尖アプローチ (transapical approach)(図1右)を選択します。他にも経鎖骨下アプローチ (transsubclavian approach)や最近では胸を小さく開けて(胸骨上部正中切開、もしくは肋間開胸)上行大動脈から弁を挿入する経大動脈アプローチなども行われています。いずれの方法にも利点、欠点があるため、個々の患者さんに即した最善のアプローチ法の選択が大変重要になります。

どのような弁が用いられているか?

現在ヨーロッパで主に用いられているのはEdwards社のSapien XTとMedtronic社のCoreValveの2種類です。これらの他にもCEマークを受けているデバイスがいくつかあります。一方アメリカではSapien XTとCoreValveのみがFDAの承認を受けています。

日本ではSapien XTが2013年6月に薬事承認、同年10月から保険償還を受け、限られた認定施設で施行されています。一方CoreValveはすでに治験が終了しています。

当院では2013年10月の保険償還と同時にTAVIを開始し、2014年7月までに60例以上施行し、手技成功率100%を達成しています。

当院の特色

1. この治療では、カテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、心臓麻酔専門医やその他コメディカルなどからなる強固な「ハートチーム」の形成が必要不可欠で、当院でも専門のハートチーム体制を整えています。http://www.keio-minicv.com/

2. 当院は大学病院としての先進的な治療に加え、循環器系のみならずすべての診療科(呼吸器、消化器、神経、血液、リハビリ、整形 etc…)が揃う総合病院としての機能を持ちあわせており、高齢かつ高リスクな患者さんに対しても集学的かつ全人的な医療を提供可能であることが、大きな強みとなっております。

3. 担当の林田医師は、フランスで3年間専門のトレーニングを受け400例以上(そのうち主術者として100例以上)を経験し、日本人として唯一(2014年8月現在)Sapien XTのTAVI指導医資格を取得しています。日本のほとんどの認定施設でのTAVI新規導入に貢献し、現在まで指導医として25施設以上、80例以上を経験し、手技成功率100%を達成しています。

4. 当院ではヨーロッパの経験のある施設のみで行われている「超低侵襲TAVI」を積極的に取り入れています。具体的には、止血デバイスを用いた経皮的止血をほとんどの症例で行い、また肺機能低下患者さんに対し、人工呼吸器管理を必要としない局所麻酔下での手技も可能となっています。さらに僧帽弁位に人工弁が留置され、TAVI弁の留置困難症例や、また低心機能例で手技難易度が高い症例に対しても安全にTAVIを施行しています。

どのような患者さんが適応となるのか?

基本的には外科的大動脈弁置換術の適応とならない、もしくは高リスク(logistic EuroSCORE 20%以上、もしくはSTS score 8%以上が目安ですが、絶対ではありません。)の患者さんが適当となります。また中等度リスクでも何らかの理由で手術適応とならない(胸部放射線治療後、大動脈の石灰化が高度、非常に高齢、frailty(脆弱性)が高い、肝機能障害など)患者さんもTAVIの適応が検討されます。実際の治療は、患者さん、ご家族、紹介医の先生のご希望を最大限尊重した上で、カテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、心臓麻酔専門医などからなる「ハートチーム」による協議を経て個々の患者さんに最適な治療が選択されます(図2)。

図2

バルーン大動脈弁形成術(BAV, balloon aortic valvuloplasty)について

前述のTAVIの登場により、今まで忘れられていたBAVの有用性が再び見直されてきました。例えば状態が悪く(低左心機能、コントロールされていないうっ血性心不全、感染、認知症が大動脈弁狭窄症によるものかどうか不明な場合など)、このままTAVIを行いにくい患者さんに対してブリッジとしてBAVを先行させるなどの治療戦略が考えられます。このような方法を取ることにより、より安定した状態でTAVIの施行が可能になったり、またはBAVによりさらに全身状態が改善して結果的に外科的な弁置換術が可能となる患者さんもいらっしゃいます。また心臓以外の外科手術前にBAVを行って、周術期の心血管リスクを少しでも下げてから手術を行うなどの手法もあります。

このBAVを用いてTAVIや外科的大動脈弁置換術へのブリッジとするのは、現代の重症大動脈弁狭窄症の患者さんにとって重要な治療オプションとなりうると考えられます。 しかし注意すべきは、このBAVは根治術ではなく姑息的手段であり、BAVを繰り返し施行しても大動脈弁狭窄症は治らないため予後を改善せず、手技リスク(30日死亡率1-2%)をおかしているにも関わらず、常に突然死のリスクがあることに変わりはないということです。将来的に根治術である外科手術、もしくはTAVIを受けるつもりがない場合にはBAVを施行しても手技リスクを負うだけであまりメリットはありません。またブリッジとしてBAVを施行した場合も、なるべく早期の根治術(外科手術、またはTAVI)が必要となります。

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