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重症心不全・機械的補助循環

重症心不全とは

心不全は、心臓が全身に効果的に血液を送り出せない状態であり、息切れやむくみ、疲労感などの症状が現れ、最終的には内臓の機能が低下し、生命に危険が及ぶことがあります。心不全の原因は、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、特発性心筋症(拡張型心筋症や肥大型心筋症など)、心臓弁膜症など、さまざまな要因が関与しています。通常の内科治療や外科治療で進行を食い止められず、心臓の機能が著しく低下し、日常生活に深刻な制限をもたらす段階を重症心不全といいます。 心不全の治療としては、運動療法や薬物療法が一般的で、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬・ARB・ARNI)、β遮断薬、アルドステロン受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬の4剤を中心に、それ以外に利尿薬などが使われます。重症心不全の場合には、ペースメーカーを用いた心臓再同期療法や植込み型除細動器、心臓カテーテルや外科手術による弁膜症修復術(経皮的僧帽弁形成術[Mitraclip®]など)や不整脈治療、そして後述する機械的補助循環や心臓移植などの非薬物治療も行われます。こうした治療は、個々の患者様で適正に使用することが重要であり、心不全専門医による判断が必要となります。

機械的補助循環

機械的補助循環は、薬物療法などでは治療が不十分な心原性ショックなどの症例に対して、心臓から全身への血液供給を機械的に直接サポートする治療です。心原性ショックは緊急で治療を要する状態であり、院内死亡率は30~50% と高く、救命手段として体外型補助循環が使用されます。心臓移植までのつなぎや、機械的補助循環の永久的な使用として植込み型補助人工心臓(LVAD)も使用されます。補助循環装置にはいくつか種類があり、患者様の状態に応じて使用する装置が検討されます。当院においては循環器内科だけでなく、心臓血管外科、麻酔科、救急科などの診療科から構成される循環器集中治療チームが連携して診療にあたります。

本邦で使用可能な体外型機械的循環補助装置

日本ABIOMED株式会社より提供
Tehrani BN, et al. JACC Heart Fail 2020 Nov;8(11):879-891

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Impella(補助循環用ポンプカテーテル)

Impella(インペラ)は体外型補助循環装置の一つで、心臓の中の血液を汲み出して大動脈に送る小型の心内留置型ポンプカテーテルです。日本では2016年から使用が開始され、慶應義塾大学病院では2022年から使用を開始しています。開胸手術は必要なく、足の付け根や肩の動脈から直接挿入することが可能であり、低侵襲かつ速やかに心臓の働きを補助することができます。

機械的補助循環を要する重症心不全に対しては、大動脈内バルーンポンピング(IABP)や経皮的心肺補助装置(PCPS・ECMO)がこれまでは広く使用されてきました。一方で、IABPは心臓のサポート力がそれほど強くなく(心拍出量の増加は10-20%程度)、PCPS・ECMOでは逆行送血により心臓に負荷をかけてしまうという欠点があります。Impellaは強力な循環補助に加えて、心負荷の軽減ひいては心機能の回復効果があり、心原性ショックや重症心不全の治療成績の向上に期待されています。

日本ABIOMED株式会社より提供

補助人工心臓(VAD;Ventricular Assist Device)

Impella・IABP・PCPSは短期的に使用される機械であり、治療が長期化する場合には補助人工心臓(VAD)と呼ばれる機械を使用します。VADは体外型と植込み型の2種類があります。体外型VADは臓器障害を伴う急激な心不全増悪・心原性ショックに対して使用されます。しかし、機械が大きいため入院での治療が必要なほか、機械のポンプ内に血栓(凝血塊)ができやすく脳梗塞などの合併症を起こしやすいという欠点があります。そのため、薬物・非薬物治療を強化して体外型VADからの離脱を目指すか、もしくは植込み型VADへの切り替えが必要となります。植込み型VADは従来、心臓移植までのつなぎとして使用されてきましたが、2021年5月から植込み型VADの永久使用(Destination Therapyといわれます)が日本でも可能となり、心臓移植が適応できない場合でも自宅で植込み型VADを利用しながら日常生活を送ったり、社会復帰をしたりする選択肢が増えました。

体外型補助人工心臓(バイオフロート)

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