臨床研究「循環器プロ」大学院

コース責任者:香坂 俊
コース責任者:香坂 俊

現場に貢献できる研究を目指して当科では平成24年より臨床研究を中心に据えた 大学院プログラム(医療科学系大学院)を設置しました。このプログラムは、内科研修を終えた卒後5-7年程度の循環器系の医師が、さらなるステップアップを目指すためのコースと位置づけています。

理念

  • 慶應義塾大学大学院では臨床各分野の専門医療人、即ち「プロフェッショナル」を養成する専攻系「医療科学系」(定員8名)を平成21年に新設致しましたが、このプログラムはその中でも循環器領域に特化したものです。
  • 実臨床を経て浮かんだ疑問を基に研究計画を立案し、その知見を世界に発信していくということは循環器のプロフェッショナルとして欠かせざるべき姿勢であると私達は考えています。
    • 専門医としての研修を続けながら、現場からのリサーチクエスチョンを育てる。
    • 院1-2年次の統計学や臨床疫学の講義や実習(短期集中コース)で方法論を学ぶ。
    • 当科を中心に運営している多施設共同大規模レジストリ(冠動脈インターベンション[N=22000]、急性心不全[N=4000]、心房細動[N=3333]) 等のデータ を用いて仮説の検証を行う。
    • 解決できない問題については、前向に研究のデザインに踏み込み検討していきます。

以下にこの大学院の卒業生が取り組んできたテーマについて簡単にご紹介します(順不同)。

2期生:白石 泰之
2期生:白石 泰之

診療・健康データから、実際の診療パターンや関連する予後などを研究する手法を狭義に“アウトカムリサーチ”と呼び、近年の臨床研究の主流の一つとなっています。昨今、色々な分野において“ビッグデータ”の活用が叫ばれていますが、ビッグデータの隆盛はアウトカムリサーチにも手を伸ばしており、今や数万~数十万人のデータを使用した研究も目にする時代となりました。しかし、巨大な“ビッグデータ”が全てにおいて優れているわけでもありません。
アウトカムリサーチに真に必要なのは“質の高いデータ(品質の担保された)”であり、質の悪いデータは間違った結論を導く可能性があります。我々は、複数の大規模循環器疾患レジストリ(データベース)を長年にかけて構築し、十分に訓練された臨床研究コーディネーターのサポートの下、そのデータの信頼性は折り紙付きです。我々の心不全レジストリ(West Tokyo Heart Failure Registry[通称WET-HF], 2018年5月現在4000例の症例登録)では、これらの質の高い臨床データを基盤とし、遺伝子やIoTなどの情報を組み込み、さらに海外の共同研究者と連携し、データベース同士の直接比較も行うなど、色々な側面から日本および世界の心不全診療の現状と問題点、さらに日本の心不全診療の優れた点を検証し、世界に発信し続けています。

4期生:池村 修寛
4期生:池村 修寛

生活様式の欧米化や高齢化社会に伴い、心房細動は増加の一途を辿っています。心房細動を主因とする心原性脳塞栓症は極めて予後不良であることが知られており、その予防のための抗凝固療法に関する研究に注力が注がれています。その一方で、患者のQuality-of-Lifeを大きく阻害することも知られており、その改善も治療の大きな目標の一つです。しかし、診療の現場では患者のQuality-of-Lifeを多面的に評価することがしばしば困難であり、その評価が曖昧なまま、治療法の選択がなされているのが現状です。
こうした背景のなか当研究室では2012年より心房細動レジストリ(KiCS-AF)の登録を開始しています。このレジストリでは登録された全ての心房細動患者に質問紙表を用いたQuality-of-Lifeの評価を行い、疾病そのものに対する認識を様々な側面から評価することが可能となっています。主要な研究テーマは心房細動患者に提供された医療とQuality-of-Lifeの関連、また臨床上の転帰との関連を調査すること、ひいてはその成果を医療の質向上に役立てることです。こうした研究手法は、従来の医師からの目線ではなく、患者側の要望に寄り添うエビデンスを構築し、診療の質をより患者目線で向上していくことに大きな役割を果たすと考えてます。

1期生:猪原 拓
1期生:猪原 拓

医療の質の担保、つまり施設間で標準化された医療を提供することは、患者目線で考えた場合、非常に重要なことと言えます。私はこの「医療の質」をテーマに掲げ、特に心筋梗塞および狭心症の治療として広く普及している経カテーテル冠動脈形成術(PCI)に注目し、研究を行ってきました。当研究室は2008年より慶應大学病院および関連15施設にて施行されたPCIを連続登録しており(KiCS-PCIレジストリ)、様々な視点からの検証が可能となっています。
私は、安定狭心症においてはPCI施行による生命予後改善効果は限定的であるにも関わらず広く普及している現状を鑑み、その適応の適切性を米国で提唱された基準に当てはめることで評価しました。その結果、安定狭心症に施行されているPCIの約3割が「不適切」な適応のもとで施行されていることが分かりました(JACC Cardiovasc Interv. 2014;7:1000-9.)。さらに、そうした「不適切」なPCIの特徴を炙り出し、その割合が施設間で大きなバラツキがあることなども明らかにしました(Am Heart J. 2014;168:854-61.e11.およびAm J Cardiol. 2015;116:858-64.)。こうした研究結果を医療者側へ還元することで、不必要なPCIを抑制し、最終的には患者の利益あるいは医療費の抑制に結びつき、医療の質の向上に貢献できると考えています。

英文論文

英文論文の実績につきましては、こちらを御覧ください。

このコースには、これまで当院で臨床研究を支えてきてくれた若手医師の先生方も週に一回のSkypeカンファレンス、メーリングリストや共同研究を通じて携わってくれています。第一線の病院で働きながら医学を一歩ずつ前進させていく、そんなスタンスを理想とする方をお待ちしています。

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