臨床
成人先天性心疾患

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担当医師
小平 真幸、金澤 英明

この半世紀での生まれつきの心臓病である先天性心疾患に対する診断や手術・カテーテル等の治療技術は向上してきました。そのおかげで95%以上の先天性心疾患患者さんは成人に達するようになりました。成人先天性心疾患Adult Congenital Heart Disease (ACHD)の患者さんの多くは症状なく日常生活を送れています。しかし、修復術後遠隔期に問題が起きてくることがあります。例えば、心臓弁や導管の狭窄や逆流、不整脈、心不全などがありますが、先天性心疾患の種類によって起こる可能性が高い合併症はおおよそ決まっています。従って、成人先天性心疾患に関する専門的知識・技能を有する専門医が定期的にフォローすることが望ましいとされています。当院では2022年にグランドオープンした新病院にて全国から患者さんを受け入れられるよう成人先天性心疾患専門医が診療にあたっております。また、小児科心臓班との連携はとても密にとっており、移行医療も円滑に進めております。さらに週1回の小児・ACHDカンファレンスでは、産婦人科医、肺高血圧専門医(平出貴裕)・不整脈専門医(西山崇比古)も参加して、複雑な病態の症例ついて十分に議論したうえで、治療方針を患者さんに提示しております。

当院の成人先天性心疾患専門外来では、心房中隔欠損症/心室中隔欠損症/動脈管開存症といった単純性先天性心疾患からフォンタン循環/完全大血管転位/修正大血管転位といった複雑先天性心疾患まで幅広く診療しております。画像診断については基本となる経胸壁・経食道心エコーに加えて心臓MRI/CTを実施させていただきます。前医での画像検査がありましたら直近の画像データを持参して頂ければ、それに応じて追加の画像検査を計画させていただきます。 本施設は、日本成人先天性心疾患学会専門医総合修練施設であるとともに、成人先天性心疾患対策委員会Japanese Network of Cardiovascular Departments of ACHDの基幹施設となっています。

チームによる成人先天性心疾患診療

当院には先天性心疾患手術の長い歴史があるため、病態が複雑な成人先天性心疾患の患者さんも多く、治療に難渋する入院症例もあります。小児科(小児循環器内科)、心臓外科先天心班とともに一丸となって治療にあたることでチームの結束を深め、修練施設としての診療レベルを向上してきました。

カテーテル治療に関しては、心房中隔欠損症、動脈管開存症に対するデバイス治療をおこなっています。心房中隔欠損症に関しては、経食道心エコーによる解剖の評価が重要となりますので、心エコーチームと合同カンファレンスを定期的に開催して治療戦略を立ております。

成人先天性心疾患診療チーム体制

成人先天性心疾患外来で診療している主な疾患

当院の成人先天性心疾患外来では、単純性先天性心疾患から複雑先天性心疾患まで幅広く対応して患者さんを受け入れております。

心室中隔欠損症 VSD

心室中隔欠損症Ventricular Septal Defect (VSD)は、小児の心臓の病気の中で1番多くみられる病気です。左心室と右心室の間の心室中隔に穴(欠損孔)があいている病気です。血液が心臓の収縮によって左心室から欠損孔を介して右心室に漏れ出ます。

小児期に血行動態に影響があり症状を呈した心室中隔欠損症はこどものときに手術を受けるので、成人の心室中隔欠損症のほとんどは手術を受ける必要がない小欠損孔となります。しかし、なかには小~中欠損孔の心室中隔欠損症でこどものときには血行動態的に影響がなかったが、成人になって左室から右室への漏れが増加して左室拡大をきたすことがあります。また、心室中隔欠損症のタイプによっては大動脈弁閉鎖不全症をきたして手術適応になることがあります。

大動脈縮窄症 CoAo

大動脈縮窄症 Coarctation of Aorta (CoAo)は、大動脈の一部に限局性の狭窄、もしくは長い低形成をきたす疾患です。こどものときに手術を受けていても、高血圧をきたすリスクが高く、さらには手術部位の再狭窄をきたすこともあるので、外来での生涯にわたるフォローが重要となります。

ファロー四徴症 TOF

大動脈騎乗・心室中隔欠損・右室肥大・右室流出路狭窄の四徴からなるファロー四徴症 Tetralogy of Fallot (TOF)は、代表的なチアノーゼ性心疾患です。こどものときに多くの方が、心室中隔欠損閉鎖と右室流出路再建からなる心内修復術を受けています。弁輪部を超えるパッチ拡大術transannular patchでは、肺動脈弁閉鎖不全症は必発となります。逆流が長期的には右室に負担を及ぼすことになりますが、肺動脈弁置換の適応を心臓MRIでフォローすることになります。本邦では2023年春からカテーテルによる肺動脈弁留置術が始まっており、当院では2023年3月にHarmony弁第一例目の留置に成功しています。

当院でのHarmony弁留置第1例

房室中隔欠損症 AVSD

心臓の真ん中に位置する心内膜症組織の癒合不全によって、左右の心房間交通、心室間交通、房室弁閉鎖不全をきたすのが完全型房室中隔欠損症 Atrioventricular Septal Defect (AVSD)です。こどものときにパッチ閉鎖術および房室弁形成術を受けていますが、おとなになっても房室弁閉鎖不全がおこる可能性がありフォローが必要になります。一方で、左右心室間交通/心室中隔欠損症を伴わない不完全型(部分型)房室中隔欠損症では、おとなになって診断されることもよくあります。

肺動脈弁狭窄症 PS

肺動脈弁狭窄 Pulmonary Stenosis (PS)では、弁交連部が癒合してドーム状となって狭窄をきたす。生まれたときに重度肺動脈弁狭窄をきたしていた症例では、こどものときにバルーン形成術もしくは外科的形成術を受けており、概ね予後良好です。しかし、肺動脈弁再狭窄や閉鎖不全を認めることもあるため、心エコーや心臓MRIによるフォローが必要になります。

肺静脈還流異常症 APVC

肺静脈還流異常症 Anomalous Pulmonary Venous Connections APVCには、総肺静脈還流異常症と部分肺静脈還流異常症があります。本来は左房につながるはずの肺静脈がすべて体静脈もしくは右房に接続しているのが総肺静脈還流異常症になります。生まれてすぐに手術を受けており、成人外来では不整脈や肺静脈狭窄(頻度は少ない)に注意しながらフォローします。肺静脈の一部が体静脈もしくは右房に接続するのが部分肺静脈還流異常症になります。手術の適応については、心エコーや心臓MRIや心臓カテーテル検査で血行動態への影響を評価して判断することになります。

Ebstein病

三尖弁形成過程での障害によっておこるのがEbstein病です。三尖弁付着部位の心尖部方向へのらせん状移動によって右室の一部が右房様になり(右房化右室)、三尖弁閉鎖不全を合併して右室および右房の拡大をきたします。重症度はこの移動の度合いに依存して多様であり、心エコーや心臓MRIを用いてCone手術の適応を検討します。

完全大血管転位症 TGA

完全大血管転位症 Transposition of the Great Arteries (TGA)では、右室から大動脈が、左室から肺動脈が起始しています。生まれた直後から低酸素となり、手術が必要となります。1980年代まではMustard/Senning手術といった心房内血流転換術が行われていましたが、1990年代以降は動脈転換術 (LeCompte/Jatene術) が主流となっています。それぞれ下記のような合併症に注意して成人外来で心エコーや心臓MRIによってフォローします。

LeCompte術後のTGA

心房内血流転換術
(Mustard/Senning手術)

  • 大静脈-心房-左室ルートもしくは肺静脈-心房-右室ルートの狭窄

  • 血流転換ルートからのリーク(漏れ)

  • 右室が体循環を担うことによる右室収縮能低下、さらには三尖弁逆流

動脈転換術
(LeCompte/Jatene術)

  • 肺動脈狭窄

  • 大動脈弁閉鎖不全

  • 移植された冠動脈の狭窄

修正大血管転位症 ccTGA

修正大血管転位症congenitally corrected Transposition of the Great Arteries (ccTGA)では、心房心室接合不一致と心室大血管不一致と2つの接合不一致の結果、血液の流れは修正されています。しかし、右室が体循環を担うことが長期的に負担となり心不全を合併することになります。三尖弁逆流の程度や右室収縮能を心エコーや心臓MRIでフォローして、適切なタイミングで三尖弁置換術をお勧めすることになります。肺動脈狭窄や心室中隔欠損症合併例では、こどものときに手術を受けていることが多いですが、導管の狭窄についてもチェックが必要になります。房室ブロックの合併も頻回であり、不整脈チームと協力しながら診療しています。

フォンタン術後単心室循環

どちらかの心室が低形成であるか、心室流入部もしくは流出部を分離できないときに、上下大静脈を肺動脈につなぐフォンタン手術がおこわれます。これによって肺循環と体循環は分離されて低酸素は改善しますが、静脈圧が慢性的に高くなり心拍出量が低下して様々な合併症に注意が必要になります。肝臓はうっ血に長期的にさらされるので肝障害がおきてきますので、フォンタン循環の患者さんは小児循環器内科だけでなく消化器内科肝臓班とも密に連携して診療しております。

フォンタン術式①
右心房―肺動脈結合
Atriopulmonary
connection

フォンタン術式②
ラテラルトンネル上下大静脈―肺動脈吻合
Lateral tunnel total
cavopulmonary connection

フォンタン術式③
心外導管上下大静脈―肺動脈吻合
Extracardiac conduit total
cavopulmonary connection

成人先天性心疾患外来について

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