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心不全・心筋症

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担当医師
家田 真樹、遠藤 仁、山川 裕之、安西 淳、白石 泰之

心筋症とは

心筋症は、心臓が拡張または肥大した結果として、心機能に障害が出る疾患です。症状には息切れ、疲労感、不整脈が含まれ、重症の場合は心不全や突然死のリスクが高まります。原因は多岐にわたりますが、特発性心筋症(原因が心臓にある)と二次性心筋症(全身疾患の中で心臓にも病変が起こる)に大別されます。特発性心筋症には拡張型心筋症や肥大型心筋症があり、二次性心筋症には心サルコイドーシス、心アミロイドーシス、ファブリー病などがあります。治療には生活習慣の改善に加え、薬物療法、時に手術が含まれ、定期的な経過観察が必要です。当院では豊富な診療経験をもとに新規薬剤の治験も積極的に行っており、適応があれば新しい治療を受けることも可能です。

特発性心筋症

拡張型心筋症、肥大型心筋症

拡張型心筋症

拡張型心筋症は、進行性の左室内腔の拡張と左室収縮低下を特徴とする心筋症です。冠動脈疾患、弁膜症、高血圧性、他の二次性心筋症を除外することで診断します。原因として遺伝性と非遺伝性の双方の関連が報告されています。(  拡張型心筋症
当院では、心エコー、心臓MRI、カテーテルによる冠動脈造影・心筋生検などを行ない、本症の正確かつ迅速な診断・治療を実践しています。必要時は、遺伝カウンセリングのもと、遺伝学的検査による診断も実施しております。
治療に関しては、これまでの心不全標準治療薬(ACE阻害薬/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、アルドステロン受容体拮抗薬)に加えて、新しい心不全治療薬(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、イバブラジン、ベルイシグアト等)の導入も積極的に行っており、最新の薬物治療を常に実践しています。また、非薬物療法として、心臓再同期療法(CRT)や不整脈に対するカテーテルアブレーション、植え込み型除細動器(ICD)の治療も積極的に行っており、近年では二次的に合併する僧帽弁閉鎖不全症に対する経カテーテル的僧帽弁形成術(MitraClip)も使用可能となり、集学的治療が実践可能な国内有数の施設となっております。

当院の拡張型心筋症の診療

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肥大型心筋症

肥大型心筋症とは、高血圧や弁膜症などの心肥大を起こす明らかな他の原因がないにも関わらず、主に左心室に異常な肥大を起こす疾患です。心室中隔の基部が肥大し、左心室から血液が出ていく部位(左室流出路)が狭くなる状態は閉塞性肥大型心筋症と呼ばれます。一部の患者さんでは心臓の収縮力が徐々に低下し、前述の拡張型心筋症様になることがあり、このような特殊な例は拡張相肥大型心筋症と呼ばれます。肥大型心筋症は無症状で経過する場合もありますが、肥大の程度や部位、心機能によっては息切れなどの心不全症状を来します。また、心房細動の合併による脳卒中や、心臓突然死の原因となることもあります(  肥大型心筋症)。
肥大型心筋症の患者さんの治療の三本柱は①心不全の治療、②心臓突然死の予防、③心房細動の治療になります。心不全症状がある閉塞性肥大型心筋症の患者さんに対して、薬物治療で閉塞が十分に解除されない場合には心室中隔縮小治療が考慮されます。心室中隔縮小治療には、外科的な左室中隔心筋切除術とカテーテルを用いた経皮的中隔心筋焼灼術(閉塞性肥大型心筋症に対するカテーテル治療 - 経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA))があります。また、肥大型心筋症は突然死の原因にもなり得るため、突然死のリスクが高い場合は植え込み型除細動器が推奨されます。
当院では、肥大型心筋症と同様に心肥大を呈するアミロイドーシス、ファブリー病(後述)などの二次性心筋症専門医、不整脈専門医や心臓超音波専門医、カテーテルインターベンション専門医、心臓血管外科医、臨床遺伝専門医、コメディカルなどと協力した集学的な診療アプローチを行っております。

当院における肥大型心筋症に対する集学的診療フロー

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遺伝学的検査について

特発性心筋症において、遺伝的要因が重要な役割を果たすことがあります。肥大型心筋症では、患者の約60%が家族内で同様の病気を持つことがあり、そのうち約40〜60%は心臓の筋肉の構造タンパク質に関連した遺伝子の変異によって引き起こされると考えられています。拡張型心筋症では、ご家族にも同様の病気を持つ方が約20〜40%の割合で存在することが報告されています。そのため、個々の遺伝学的検査が、診断の精度向上に寄与する可能性があります。近年、特発性心筋症において多くの原因遺伝子が特定され、遺伝子変異の種類と病気の進行との関連性が次第に明らかになっています。

例えば、拡張型心筋症では、40以上の原因遺伝子が特定されており、その中でもとくにタイチン(TTN)やラミンA/C(LMNA)の遺伝子変異が比較的高頻度に認められます。LMNA遺伝子変異による拡張型心筋症はラミン心筋症として知られ、心不全に加えて、不整脈が合併することが多く、重篤な症状を呈する例が多いといわれています。将来的には、遺伝学的検査の結果を診断、治療、予後予測などに活用できる可能性が高まっており、より個別化された医療の提供が期待されています。

当院では、臨床遺伝専門医と連携して、適切な遺伝カウンセリングのもと、遺伝学的検査を実施し、その結果を患者さんと紹介医の先生と共有する体制を整えています。特発性心筋症は、保険診療としての遺伝学的検査が認可されていないため、必要時には、研究レベルでの遺伝子解析を実施しています。一方、後述するアミロイドーシスやファブリー病などによる二次性心筋症や筋ジストロフィーのような疾患では、遺伝学的検査が保険適応となっています。また、これらの検査結果を踏まえて、患者さんご本人のみならず、血縁の方々の診察や検査を進めることも可能です。

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