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肺高血圧症

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担当医師
平出 貴裕、安西 淳

肺高血圧症とは

心臓は全身に血液を送り、体に酸素を供給しています。全身から心臓に戻る静脈血は、心臓を経て肺に送られ、肺で酸素を取り込んだあとに心臓に戻り、再び全身に送られます。肺高血圧症とは、種々の理由で肺血管の圧力(血圧)が上昇する状態で、安静時の右心カテーテル検査で平均肺動脈圧が25mmHgを超える際に診断となります(正常な平均肺動脈圧は10~17mmHg前後)。肺に血液を送る心臓に徐々に負担がかかることで、心不全となり、日常生活に支障を来す病気です。

肺高血圧症の主な症状

自覚症状

労作時息切れ、倦怠感(だるさ)、胸痛、失神、動悸、咳嗽、喀血
右心不全を伴うと:腹部膨満感、顔や足のむくみ

他覚症状

  • 第2肋間胸骨右縁のⅡ音肺動脈成分の亢進

  • 三尖弁閉鎖不全による第3-4肋間胸骨左縁での汎収縮期雑音

  • 肺動脈弁閉鎖不全症による胸骨左縁の拡張早期雑音(Graham Steel雑音)

  • 右心性Ⅲ音

  • 内頸静脈怒張(座位または45度半坐位で診察)

  • 圧痕を残す下腿浮腫、腹水、肝腫大など

肺高血圧症の原因

病気を治療するうえで、病気の原因を特定することが非常に重要です。肺高血圧症を来しうる背景疾患によって、5つの臨床分類に分けられています(表1)。肺高血圧症の背景疾患がある場合と原因不明(特発性)の場合があります。背景疾患を持っていても肺高血圧症を認めるのは一部であり、なぜ肺高血圧症が発症・病気が進行するかは明らかになっていません。
肺動脈に病変がある肺動脈性肺高血圧症(第1群)の中には、遺伝子の変化と関連する場合があります。また近年、肺疾患や心疾患を持つ肺高血圧症が増えており、的確な診断を行うことが重要です。

(表1) 肺高血圧症の臨床分類

表は右にスクロールしてご覧になれます。

名称病態・発症要因
第1群 肺動脈性肺高血圧症
  • 肺血管拡張薬

  • 利尿薬

  • (右心不全が強い場合)強心薬

  • 重症例では肺移植を検討

  • 原疾患がある場合は原疾患に対する治療

第2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
  • 左室収縮機能障害、拡張機能障害、弁膜症などの左心不全が原因です。

  • 一般的な”両心不全”であり最も頻度が高く、指定難病ではありません。

第3群 肺疾患/低酸素血症に伴う肺高血圧症
  • 間質性肺炎やCOPDなどの肺疾患や高地トレーニングなどの低酸素負荷が原因です。

第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症など、血管閉塞を伴う肺高血圧症
  • 肺血管内に血栓や腫瘍などが閉塞して形成されます。

  • 肺塞栓症から移行する場合もありますが、多くは原因不明であり、指定難病です。

第5群 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症
  • サルコイドーシスや糖尿病、人工透析などに関連する肺高血圧症です。

肺高血圧症の診断、検査

肺高血圧症を疑ったら、血液検査、心電図、胸部X線検査といった一般的な検査に加えて、心エコー検査を行います。心エコー検査で肺高血圧症の可能性が示唆された場合、右心カテーテル検査で確定診断や血行動態の判断、重症度の判断を行います。背景疾患の検索のため、肺換気血流シンチグラフィーや胸部高分解能CT、肺機能検査、腹部エコーなどを実施します。

肺高血圧症の診断に有用な検査

赤枠は難病の臨床個人調査票に記載が必要な検査です。

肺高血圧症の治療

背景疾患が明らかな場合、背景疾患に対する治療を検討します。右心不全など溢水傾向があれば、利尿薬などで除水を図ります。第1群、第4群肺高血圧症に対しては、後述する専門的な加療を検討します。第2群以外の肺高血圧症に関しては肺高血圧症専門施設への紹介が望ましいと考えています。

表は右にスクロールしてご覧になれます。

治療法の種類治療法の種類
第1群(肺動脈性肺高血圧症)
  • 肺血管拡張薬

  • 利尿薬

  • (右心不全が強い場合)強心薬

  • 重症例では肺移植を検討

  • 原疾患がある場合は原疾患に対する治療

第2群(左心性心疾患に伴う肺高血圧症)
  • 左心不全に対する治療

  • 左心系疾患に対する治療

第3群(肺疾患/低酸素血症に伴う肺高血圧症)
  • 間質性肺炎やCOPDなどの肺疾患に対する治療

第4群(慢性血栓塞栓性肺高血圧症など)
  • 肺血管拡張薬

  • 抗凝固療法

  • 血栓内膜剥離術

  • バルーン肺動脈形成術

第5群(詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症)
  • 血液疾患、全身性疾患、代謝性疾患などに対する治療

肺血管拡張薬

第1群、第4群の肺高血圧症に対しては、肺血管を拡張させる薬剤を使用します。肺血管拡張薬は大きく分けて3系統の薬剤があり、個々の背景疾患や病態、重症度に応じて、使用する薬剤を調整しています。肺血管拡張薬により生活の質や生命期間は改善していますが、「狭い血管を広げる」という対症療法しかないことが課題となっています。

肺血管拡張薬の現状

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血栓内膜摘除術(PEA)・バルーン肺動脈形成術(BPA)

第4群のうち、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対しては、薬物療法に加えて外科的・経カテーテル的治療を検討します。肺高血圧症の重症度や治療する血管形態、全身状態などを考慮し、治療方針を決めます。

バルーン肺動脈形成術(BPA)

その他

低酸素血症を認める場合、酸素投与は必須であり、在宅酸素療法は重要な治療の一つです。溢水傾向があれば利尿薬を使用します。内科的治療に反応が乏しい場合、肺移植も検討されます。

肺高血圧症の専門施設への紹介

慶應義塾大学医学部循環器内科では、指定難病疾患である肺高血圧症の診療に力を入れています。肺高血圧症は命に係わる疾患である一方で、疑わないと診断が難しい疾患でもあります。「息切れはあるけれど、心臓の詳しい検査はしたことがない」「息切れがあって(呼吸器疾患などの)治療を受けているけれど良くならない」患者さんの一部には、肺高血圧症があるかもしれません。現在は肺血管拡張薬を用いることで、生存期間を大きく伸ばすことができており、的確な診断と専門家による治療が重要となっています。

肺高血圧症のうち、肺動脈性肺高血圧症(第1群)や肺疾患合併例(第3群)を平出貴裕、血栓塞栓性肺高血圧症(第4群)を安西淳が担当しており、チーム体制にて治療に取り組んでいます。肺動脈性肺高血圧症に対しては、プロスタグランジン製剤の持続静注療法などの肺高血圧症専門加療以外にも、肺高血圧症関連遺伝子の遺伝子解析も(研究ではありますが)実施し、肺高血圧症患者様の個別化医療実現に向けて日々精進しております。また肺高血圧症診療に従事する看護師とも連携し、持続静注の管理からメンタルケアまで、肺高血圧症患者のトータルケアを行っています。

どの段階で紹介頂いても大丈夫ですが、心エコー検査で疑わしい所見があった段階でご紹介いただくのが最もスムーズと考えております。
またすでに慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)と診断されており、カテーテル治療(バルーン肺動脈形成術など)をご検討されている場合は、火曜午後のCTEPH専門外来にご紹介検討頂けますと幸いです。
肺高血圧症の発症原因は様々ありますが、近年急速に認定患者数が増加していることが特徴です。肺高血圧症の診断が疑わしい方、肺高血圧症の治療強化が必要な方、本人や家族員の遺伝学的な評価を検討されている方などいらっしゃいましたら、ご相談検討頂ければ幸いです。

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