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心臓カテーテル治療

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心構造疾患
Structural Heart Disease

担当医師
林田 健太郎、金澤 英明、安西 淳、小平 真幸

従来、心臓カテーテル治療は主に冠動脈に対するものでしたが、近年では心構造疾患(SHD)に対するカテーテル治療が注目されています。当院では、肥大型閉塞性心筋症、慢性塞栓性肺高血圧症、心房中隔欠損症、動脈管開存症などに対するカテーテル治療を行っており、良好な成績を収めています。

特に注目すべき進歩としては、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)があります。これは高齢者や合併症を持つ重度の大動脈弁狭窄症患者に対し、カテーテルを用いて生体弁を留置する方法で、予後の改善に寄与しています。当院では約1500例のTAVI治療を行い、2022年の周術期死亡率はゼロを達成しています。

また、開胸手術が困難な方や機能性僧帽弁閉鎖不全症などに対しての経皮的僧帽弁形成術(MitraClip)や抗凝固療法が困難な心房細動の方に経皮的左心耳閉鎖術(WATCHMAN)も当院では行っており、良好な成績を収めています。
これらの治療法は、「ハートチーム」の形成が重要であり、各分野のスペシャリストによるチーム医療により、「最も患者さんにやさしい」治療を提供しています。

経カテーテル大動脈弁留置術TAVIまたは経カテーテル大動脈弁留置術TAVR

重症の大動脈弁狭窄症で、開胸手術による治療が不可能または 非常に困難な患者さんに対する新しい治療です。大動脈弁をバルーンで拡張するだけでなく弁を留置する治療法です。

以前、重症大動脈弁狭窄症の治療のゴールドスタンダードは外科的な大動脈弁置換術でしたが、全患者の少なくとも30%は高齢または高リスクで、外科手術が出来ませんでした。これらの問題を克服するために、フランスのルーアン大学の循環器内科のAlain Cribier教授により、バルーンで大動脈弁を拡張するだけでなく、弁を留置する治療法が考案され、2002年に初めて施行されました。初期は未熟な治療で周術期死亡率も非常に高かったですが、デバイスの改良や経験・知識の蓄積により、年々安全性が向上し、現在は全ての重症大動脈弁狭窄症の患者さんにTAVI治療が選択肢の一つとして考えられるようになりました。

我々はカテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、心臓麻酔専門医などからなる強固な「ハートチーム」を持っています。1500件以上のケースを経験し、成功率は99.9%と非常に良好であり、安全かつ高品質なTAVIを提供しています。また、こうしたあらゆる手術リスクの患者さんにTAVI治療の適応が拡大したのみならず、最近では以下のような進歩があり、TAVI治療の適応の拡大がなされております。

TAVI/TAVR

外科生体弁劣化に対するTAVI治療

以前に外科的手術によって留置された生体弁が経年劣化し機能不全に陥った場合、TAVI治療によって人工弁機能不全を改善することが2018年7月より認可されました。再度の開胸手術をせずに行うことができ、多くの患者さんにとって、再手術よりもリスクの低い治療の提供が可能となっております。現在、外科生体弁劣化に対するTAVI治療ではSapien 3 UltraResiliaとEvolut FXという2種類のカテーテル弁の使用が認可されております。当院では双方の弁によるTAVI治療が実施可能であり、患者さんの状態に合わせて使い分けております。

人工透析中の方に対するTAVI治療

人工透析中の方は動脈硬化性疾患への罹患率が高いことが知られており、大動脈弁狭窄症を持つ方も少なくありませんでした。本邦でも2021年1月にエドワーズライフサイエンス社製造のカテーテル弁でのTAVI治療が認可され、その後、日本メドトロニック社製造のカテーテル弁でのTAVI治療が2023年6月に認可されました。透析中の方のTAVI治療は非透析患者さんと比較すると合併症の発生率が高く、注意を要しますが、当院では2つの人工弁が使用可能であり、患者さんに応じて適切に使い分けを行い、安全なTAVI治療を心がけております。

カテーテル弁劣化に対するTAVI治療

外科生体弁同様、カテーテル弁もウシやブタの生体組織を用いて人工弁が製造されているため、術後に人工弁機能不全が生じることが懸念されておりました。TAVI治療後10年間は、90%以上の方が人工弁への治療を要さずに経過することが報告されておりますが、術後5年程度から機能不全が生じてくる可能性が指摘されており、本邦でのTAVI治療開始から約10年経過した現在では、カテーテル弁の機能不全を呈する方がみられるようになりました。2023年9月現在、エドワーズライフサイエンス社製造のカテーテル弁の機能不全に対して、再度TAVI治療を行うことが可能となっており、当院でもカテーテル弁劣化をきたした方に再TAVI治療を実施しており、良好な成績が得られております。

当院では上記1~3全てのTAVI治療について施設認定がされており、大動脈弁に留置された生体弁が劣化してしまった方や透析治療中の方も当院でのTAVI治療を実施することが可能です。さらに、現在本邦で使用可能なTAVI弁は3種類あり、当院では全てのTAVI弁を使用することが可能ですので、患者さんそれぞれにあった最適なTAVI弁を留置しております。

我々はカテーテル治療専門医、心臓外科専門医、イメージング専門医、心臓麻酔専門医などからなる強固な「ハートチーム」を持っています。1500件以上のケースを経験し、成功率は99.9%と非常に良好であり、安全かつ高品質なTAVIを提供しています。当院でのTAVI治療の詳細については下記のホームページをご覧ください。

  TAVI

私たちは手技のみならず、世界にデータを発信していくことも目標として活動しております。

従来単施設研究では日常臨床に即した詳しいデータ収集は可能であるものの、症例数が少なく真実を得るための解析には足らない問題点がありました。しかし当院ではTAVIを中心に日本全国から症例が集まる非常に豊富な症例数を有する施設でもあり、長期的なフォローを行っていることで単施設の研究でも貴重なデータを世界へ発信しております。

また、当チーム責任者の林田医師はTAVIやMitraClipといったSHD関連の多施設レジストリーグループとしてのOCEAN-SHD研究会の代表を務めており、当チームのメンバーも本研究会に参加し、日本から世界の患者さんのためのデータを発信できるよう日々研鑽を積んでおります。

経皮的僧帽弁形成術(MitraClip)

重症の僧帽弁閉鎖不全症になると、薬物療法だけでは心不全の症状(息切れや浮腫など)をコントロールすることが難しくなり、開胸して僧帽弁を人工弁に置換する手術や僧帽弁を形成する手術が必要となることがあります。しかし、開胸手術は身体への負担が大きく、高齢者や持病を抱えている方には困難な場合があります。そうした患者さんに対して、体への負担が比較的少ない僧帽弁接合不全修復システムによる経皮的僧帽弁形成術(MitraClip)が適用されることがあります。MitraClipは僧帽弁閉鎖不全症による血液の逆流を減らし、心不全の症状を改善する効果が期待できます。

このMitraClipデバイスを使用した僧帽弁閉鎖不全症に対する治療は左室機能低下に伴う僧帽弁閉鎖不全症に対して、従来の薬物治療に加えて、実施することで初めて心不全入院や死亡を回避することができることが証明された治療法です。当初2年間という比較的短い期間での有効性が発表されておりましたが、近年、5年までの術後成績が報告され、5年後もMitraClipを用いた経皮的僧帽弁修復術を実施した患者さんでは、薬物治療単独に比較して心不全入院や死亡が少ないことが報告されました。この結果は従来に外科的治療では得られることができなかったものであり、非常に画期的な治療法であると考えられます。

当院では治験施設として早期からこの治療を開始し、良好な成績を収めています。また当初、日本で使用開始されたMitraClipは第2世代でありましたが、現在は第4世代までデバイスの進歩が得られ、以前は単一のサイズしかなかったクリップが、サイズの異なる4種類のクリップを選択可能となりました。これにより、より少ないクリップ数で僧帽弁閉鎖不全症が制御できることが報告されており、手技時間の短縮につながり、患者さんの負担をさらに軽減されることが期待されております。当院でも最新世代のMitraClipによる治療は可能であり、すでに4種類全てのクリップの使用経験もあることから、ハートチームで協議して、患者さんに最適なクリップを選択することで良好な手術成績を収めております。当院でのMitraClipを使用した治療の詳細については下記のホームページをご覧ください。

  MitraClip

MitraClip

左心耳閉鎖 LAAC

心房細動の患者さんでは心臓内に血栓が形成され、それが血流に乗って、細い血管で詰まってしまうこと(血栓塞栓症)が生じることが知られています。
こうした脳卒中などを起こしうる血栓塞栓症の原因である血栓の90%以上が心臓内の左心耳(LAA)という部位から発生していることが知られています。

経カテーテル左心耳閉鎖術のデバイスを心臓の左心耳(LAA)に留置することで永久に閉鎖し、血栓が全身に飛ぶのを防ぎ、脳卒中リスクを減らすことができます。
また、こうした血栓塞栓症を防ぐために抗凝固薬を使用することが多いですが、抗凝固薬は脳出血などの重大な合併症を引き起こしえます。経カテーテル左心耳閉鎖術を行うと抗凝固療法を中止できる可能性もあります。

左心耳閉鎖術後は抗血小板剤の内服が必要になりますが、抗血栓療法であっても抗凝固薬の方が出血のリスクが上がるのではないかという報告があり、実際に経カテーテル左心耳閉鎖術後の方とカテーテル治療をせずに従来通りの心房細動に対する抗凝固療法を継続した方とでは、手技に関連するもの以外の出血が抗凝固療法を継続した方では多かったとする報告があります。

このように血栓の発生部位である左心耳を閉鎖することで、抗凝固療法を行なっても脳梗塞を発症されてしまった方のみならず、抗凝固療法による出血合併症に悩まされている方にも、この経カテーテル左心耳閉鎖術は非常に良い治療であると考えらます。

また本邦で使用されている左心耳閉鎖デバイスであるWatchmanデバイスは近年従来のWatchman2.5からWatchman FLXに改良されました。

この新しいWatchman FLXデバイスは従来のものと同様に安全に使用可能であり、尚且つ、以前のデバイスと比較して良好な左心耳閉鎖、デバイス自体への血栓の付着が少ないことが報告されました。
また近年報告されたメタ解析でも同様にWatchman FLXは以前のWatchman 2.5と比較して合併症が少ないなどの優越性が報告されております。
当院でも最新Watchman FLXを用いて、経カテーテル左心耳閉鎖術を行っており、非常に良好な成績を収めております。

当院での経カテーテル左心耳閉鎖治療の詳細については下記のホームページをご覧ください。

  WATCHMAN

Watchman FLX

Boston Scientific社より提供

経皮的僧帽弁裂開術 PTMC

症状や心房細動の出現、または心臓内に血栓が形成された場合、カテーテル(細い管)による治療や外科的な心臓手術が必要となります。カテーテルによる治療法は心臓内に血栓がないこと、僧帽弁逆流症が重度でないことが前提で、弁の硬さなどを総合的に判断して治療が行われます。この治療法は経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)と呼ばれます。

カテーテルを用いて足の動脈から直接心臓に到達し、硬くなった弁にイノウエ・バルーンという風船を運び、そこでバルーンを広げて、硬くなった僧帽弁を広げる治療です。心臓手術に比べ開胸術ではないので、患者さんの負担は少ないですが、治療が安全に行えるかどうか、慎重に吟味する必要があります。

卵円孔開存PFO閉鎖術

卵円孔開存は、右心房と左心房の壁に開いている孔で、成人の2〜3割に見られます。通常は問題とならないですが、稀に脳梗塞や一過性脳虚血発作の原因となることがあります。

対象となるのは以下のような方々です

  • 卵円孔開存の関与があり得る潜因性脳梗塞の診断基準に合致した患者

  • 適切に施行された抗血栓療法中に上記潜因性脳梗塞を発症した方

  • 原則として、60 歳未満の方

  • (女性の場合)妊娠していない、かつ 1 年以内の妊娠を希望しない方

治療は基本的に局所麻酔を使い、カテーテルを太ももの付け根の静脈から挿入し、心臓まで卵円孔の閉鎖に使用する閉鎖栓を運びます。治療後は一定時間ベッド上で安静後、翌日から歩くことが可能です。経過が順調であれば数日後に退院可能です。

Amplatzer Talisman PFO Occluderによる卵円孔開存閉鎖

GORE CARDIOFORM Septal Occluderによる卵円孔開存閉鎖

心房中隔欠損症 ASD

心房中隔欠損症とは、左心房と右心房の間の壁(中隔)に穴(欠損孔)があいている病気です。左心房から右心房への血液の漏れが生じますが、多くの場合には症状はなく、乳幼児健診や学校心臓検診で心臓の雑音や心電図の異常から発見されます。欠損孔を介して左心房から右心房に流れる血液の量(短絡量=心臓への負担)を心エコー検査や心臓カテーテル検査で詳しく調べ、欠損孔の閉鎖が必要かどうか(=治療適応)が決まります。欠損孔の閉鎖が必要な場合、二次孔型心房中隔欠損症については、閉鎖栓デバイスを用いたカテーテルによる治療が一般的となってきています。
欠損孔の場所によっては、人工心肺を用いた外科的閉鎖術の適応になりますし、静脈洞型や冠静脈洞型では原則手術で治療することになります。

肺高血圧合併例では、肺高血圧専門医(平出医師)と協力して診療しております。肺血管拡張薬による治療を最初に開始して肺動脈圧を下げてから心房中隔欠損孔を閉鎖するtreat and repairも症例を選択して実施しております。

ASDイメージ図

Amplatzer septal occluderによる心房中隔欠損症デバイス閉鎖

Figulla FlexⅡによる心房中隔欠損症デバイス閉鎖

Figulla FlexⅡによる心房中隔欠損症デバイス閉鎖

Gore CARDIOFORM ASD Occluder による心房中隔欠損症デバイス閉鎖

動脈管開存症 PDA

動脈管とは、胎児期において大動脈と肺動脈をつなぐ小さな管で、新鮮な血液を全身に流すために必要です。しかし、生まれた後は肺が働き始めるため動脈管は不要となり、通常は生後48時間以内にほとんど血液が流れなくなり、数週間で完全に閉じます。動脈管開存とは、生後も動脈管が開いたままの状態を指します。大動脈から肺動脈へ血液が漏れることで心臓に負担がかかります。治療法としては、開胸手術とカテーテル治療の2つがあります。手術では動脈管を糸で結び、カテーテルではコイルやアンプラッツアー閉鎖栓を用いて塞ぎます。大人の患者さんでは、動脈管が硬くなっていることが多いため、カテーテル治療が一般的です。

PDAとPDA閉鎖のイメージ

心臓カテーテル治療外来について

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